東京高等裁判所 昭和62年(う)643号 判決
被告人 円城仁志こと中野日出男
〔抄 録〕
原裁判所が取り調べた関係各証拠によると、被告人は、麹町駅及び銀座一丁目駅のいずれにおいても、その時間帯には数分おきに電車が進入して来ることを十分に知っていたのに、原判示のような動機から、それぞれ、大きさや重さが原判示のとおりの鉄製ごみ箱二個を、一個ずつ両手で持ち上げてホームの壁側から線路際まで運んだうえ、相次いで軌道上に投げ込んで放置したこと、麹町駅においては、間もなく市ケ谷駅方面から進行して来た電車の運転士が軌道上にごみ箱があるのを発見して急制動の措置を講じたため、その電車が、一個目のごみ箱を車体の下に巻き込んだのみで、二個目のごみ箱の数メートル手前で停止し、銀座一丁目駅においては、間もなく有楽町駅方面から進行して来た電車が、先行電車の出発待ち合わせのため、ホーム始端あたりを先頭にして停止した結果、いずれも大事には至らなかったものの、もし急制動も停止もせずに正規のとおり進行していたとすれば、ごみ箱との接触は避けられず、それに基因して電車が脱線するなどの危険があったことが認められる。そして、これらの事実に徴すると、被告人は、当時酒に酔っていたとはいえ、通常人としての常識、判断力を備えていて、そのごみ箱を軌道上に投げ込めば、それが進行して来る電車と接触して右のような事故につながるおそれがあるという程度の認識はあったものと推認するのが相当で、往来危険について故意がなかったとはいえないし、また、被告人の本件各行為により、それぞれ電車の往来の危険即ち右のような事故につながるおそれのある状態が具体的に発生したことも明らかであるから、原判決に所論のような事実の誤認はないものといわなければならない。
(坂本 田村 本郷)